途絶えかけた歴史を守り継ぐ。
アメリカが最も華やかだった1950年代、その時代を象徴するデザインムーブメント「ミッドセンチュリーモダン」が生まれました。それは新素材と未来的なデザインが融合したこれまでにないスタイルで、未来への展望が凝縮された作品の数々に、人々は魅了されていったのです。
それから半世紀以上が過ぎ去った今でも、ミッドセンチュリーモダンは世界中の人々に愛されています。その代表格とも言えるのが「シェルチェア」。当時の新素材「ファイバーグラス」を使用、装飾や無駄を極限まで削ぎ落とした完璧なシェイプを特徴とし、輝かしい名を歴史に刻むことになりました。
その後、世界は大量生産・大量消費の時代に突入します。人手とコストを要するファイバーグラスシェルチェアは安価なプラスチックを用いる時流に押されて、次第に勢いを失っていきました。
シェルチェアを最初に生み出し、以後も幾多のシェルチェアを造り出してきた「ゼニス工場」も、1980年代に稼働を完全停止。ファイバーグラスシェルチェアの歴史が途絶えるかと思われたその時、ゼニスから社名を変更した「センチュリー プラスチック」のシェルチェアプレス機が「MODERNICA(モダニカ)」社へ渡ることに。
消えかけていた歴史の燈火が、新しい時代に受け継がれた瞬間でした。
ものづくりの情熱が、すべての源。
「MODERNICA(モダニカ)」は、ゼニス工場のプレス機を製造し、シェルチェアづくりに最も重要な役割を果たした技術者であるサール・フィンガーハット氏を探し出し、製造監督として招き入れました。
目指したのは、ファイバーグラスシェルチェアの復活。ゼニス工場で製造していた頃と同様にファイバーグラスカンパニー「Owens Corning Co.」からファイバーグラスを取り寄せ、カラーもシェルチェアの登場当時と同じレシピで調合しました。
誕生当時そのままの素材とカラーを継承し、ゼニスプレス機で一気に溶かし固めて完成する「MODERNICA(モダニカ)」のファイバーグラスシェルチェア。時代の変遷によって失われたピースを一つ一つ見つけ出して繋ぎ合わせたシェルチェアには、ミッドセンチュリーの歴史と、ものづくりへの情熱が今も変わらず詰め込まれているのです。
輝き続ける、当時の最先端。
ファイバーグラスは樹脂とグラスファイバーを調合したもの。1950年代前半には、軽くて頑丈なハイテク素材として知られていました。
シェルチェアの製造においては、曲面を自在に表現することができ、比較的ローコストで制作できたのも魅力のひとつ。薄くて透過性が高いため、色合いによってはほのかな透け感を楽しむことができるのも特徴です。
昔も今も、職人の手仕事で。
いくつかの機械は使うものの、1950年代と同様に工程のほとんどが職人の手作業で行われている「MODERNICA(モダニカ)」のファイバーグラスシェルチェア。
まず、原料となるファイバーグラスを椅子の型に合わせて吹き付けて、椅子の原型を制作します。余った材料を削り取り、足りない部分には補充します。さらに椅子を高温のプレス機に乗せて、上から塗料を注ぎます。
プレスにかかる時間は約5分。プレス機の間から高温になったファイバーグラスチェアが登場し、ヤスリがけなど仕上げの作業もすべて手で行われた後に、完成します。